2024-07-19

ホラー映画化で炎上 8年前の高校生殺人事件でっち上げ逮捕の真相

 土曜日の深夜、高架端に血まみれで倒れているところを発見された高校生男女。ヘルメットをかぶって倒れていた少年は既に息絶えており、夥しい血が流れ出ていた。かすかに意識が残っていた少女の方は病院に運ばれ4時間後に息を引き取った。手足に深い傷を負い、強姦を受けた痕跡があったという。

当初、警察はこれを交通事故として扱い二人の遺体は検死なしで埋葬された。殺人事件としての捜査が始まったのはそれから数日後、少年の父親による捜査依頼が提出されてから。警察は、聞き込みによる証言により、被害者と敵対関係にある暴走族メンバー11人の犯行であると断定。

容疑者らは、二人の乗るオートバイを追跡して取り囲み、石やレンガを投げるなどして転倒させ、空き地に連れ込み暴行を与え、日本刀で殺害したあと、交通事故に見せかけるために二人を現場に運び捨てたという。

目撃者の証言に基づいて、現場近くの住宅地で酒を飲んでいた少年ら8人が逮捕されたが、全員が容疑を否定。暴走族や被害者との関係もない。殺害場所での血痕や、血痕のついた衣服や凶器なども見つかっていない。首謀者不在の現場検証も形の上で行われたにすぎず、誰が殺害に関わったとか、石を投げたかなどの役割りも不明なまま。目撃者の証言と本人の自白だけを根拠に、7人全員が終身刑、未成年であった一人については懲役8年という重罰が下された。

場検証中の容疑者少年たちの訳が分からんといった表情。隠しようもない警察の横暴さ。

被害者のエキイは、中部ジャワを基盤とする暴走族組織の地元のリーダーだった。カメラの前では顔をゆがめてみせるのが癖らしい男気ありそうな好男子、紅一点でいつもそばにいる長い髪の少女フィナ。事件の夜、エキイは、いつものように彼女を家に送り届けてから、組織のミーティングに向かう予定だった。


発見されたとき、意識の残っていたフィナは、既に息絶えていたエキイの傍に這い寄って手をつないでいたという。


”フィナがいつもエキイと一緒にいるのをみて、エギイが嫉妬したの。まだ罰を受けてない人がいる。罰を受けさせて” これは、事件後しばらくたって、フィナの霊が乗り移ったとして、暴行を受けたときのことを語りはじめたフィナの友人を名乗る少女の口寄せ。


親友を名乗ったり、ただの顔見知りだと言ったり。殺人現場にいたのではという疑いもある。

エギイというのは、未だ逮捕されていない三人の容疑者の一人で、二人を襲撃して殺害するよう仲間に呼びかけた首謀者だということだが、指名手配されているのに写真も似顔絵もないので、様々な憶測や情報が錯綜し断定できないが、昔エキイと仲間だったエギイがその人物であると考えられている。

それにしても、この年頃で失恋ぐらいの動機で、残忍な計画的殺人を決行するなどということは普通の感覚では理解できない。超自信過剰で浮世離れしたお金持ちや、権力者の息子に違いないというイメージしか湧いてこない。今年の5月に公開され、大ヒットとなった、この事件を元にした映画”フィナ 7日前”もそのようなストーリー展開のホラー映画。

ご遺族の方々には辛い過去を思い出さなければならないことになるかもしれないけれど、こういった事件のドラマ性によって大衆の関心を惹きつけることが、真実の究明に少しでもつながるのなら協力したいと思うのが人情というもの。8人に重刑が下された一方で、主謀格の3人がおとがめなしになっているのはどういうことなのか、警察は答える義務がある。

8年前の事件に対する再調査の声が高まる中、被害者エキイの父親がメッセージを配信している。”遺族を苦しませるような憶測は止めてください”という内容で、声が震えて言葉が続けられなくなってしまったりする痛々しいものだった。しかし、エキイの父親が警官の制服姿であったことから、その呼びかけの内容よりも、事件の裏に隠されていたもう一つのストーリーの方に注目が集まった。

事件発生の数カ月前、中国・マレーシアからスマトラ島のいくつかの港をめぐり、首都ジャカルタから3時間ほどのこの港町に寄港していた輸送船に対し摘発が行われ、国際的な麻薬組織の船から大量の薬物が押収された事件があった。

エキイの父親は、当時麻薬捜査官としてこの事件に関わっていたが、何等かの恨みをかった可能性があるのではないか?標的とされたのは麻薬捜査官の家族としてのエキイであり、フィナはその巻き添えになったのではないか?という説。

一方で、この父親の涙をあざとい演技だと批判する声も存在する。警察官なら、息子の遺体をみて何があったかその場でわかっているはずなのに検死を断ったこと。担当地区外であるにもかかわらず、この事件の捜査の陣頭指揮をとり、監視カメラの映像も容疑者の携帯電話の内容も公開せず、物的証拠も曖昧なまま、目撃者の証言と自白だけで11人の容疑者を特定してしまったことなど。

さらに、容疑を否定する少年らに対し警察が与えた拷問や非人間的な扱いを指示したのがエキイの父親だったという証言もある。この事件の前までは、功績のある優秀な麻薬捜査官として表彰を受けたことのある優秀な捜査官だったというが、息子を失った悲しみのせいなのか、その他の圧力か何かがあるのか。

終身刑の判決を受けた少年らのなかには、絶望のあまり病気で倒れ親を亡くした者、家族から縁を切られ誰一人面会に来てもらえない者もいる。彼らにも減刑の申請を行う機会は与えられているがしかし”容疑を認める”ことが条件の一つであることから、誰一人として減刑を申請してこなかった。

逮捕された当時15歳だったサカタタはその夜、別の用事でたまたま現場の近くにいたが、突然、家に押しかけてきた警察とその他の制服を着ていない男たちによって、理由もよく説明されないうちに警察所に連れて行かれて拷問を受け自白を強要された。未成年であったことで終身刑ではなく8年の刑期を課せられた。今年刑期を満了し、これから名誉回復のため訴訟をおこすのだという。彼が勝訴すれば、終身刑で服役中の他の7人の判決についても見直しされる可能性がある。

そんな折、事件の決着を急ぐ警察が、主犯格のエギイだとして緊急逮捕したのは、他県の建設現場で出稼ぎに出ていた27歳の男性。小学校高学年の時に両親が離婚、中学卒業以降は建設現場で働き、幼い弟妹たちを高校進学・卒業させたことが誇りという苦労人。

エギイだと言われている人物の8年前の写真と顔があきらかに違う、名前もエギイでなくペギーだが、警察は、事件直後から別の県に住んでいること、偽名を使っていたことを理由に、警察は、彼が事件の首謀者エギイだと押し通す。

”神かけてわたしはやってない”報道陣の前で訴えるペギーの口を手でふさぐ警察官

8年前の事件発生時、ペギーは他県で働いており現場にいたはずがない。日払いの支払い簿の日付と署名という確かな証拠と、職場の仲間たちの証言もある。彼の逮捕が有効であるか否かを審議する裁判は、彼の地元ではなく、職場のある地域で行われた。結果は、”逮捕するには証拠不足”であるとして、警察はペギーを即、釈放するよう裁判所からの命令が下った。

最近は、重要な裁判の判決が出る度に、担当する裁判官のプロフィールをチェックするのがネット民の慣習になっている。ペギーの裁判を担当したスラエマン裁判官は、単身赴任で裁判所の裏に賃貸住まい、車も所有せず徒歩で通勤しているという。8年前に少年らが最高裁まで上訴したとき、終身刑を押し付けた三人の裁判長らとは雲と泥ほどの差がある。

名前が似ているだけで逮捕され、終身刑が課されるかもしれなかったペギー。逮捕された当時、眉間のしわといい、訴えるような目の表情といい、まるで昭和初期の映画俳優が庶民の役を演じているみたいだなと思った。現在では、ファシリティさえあれば誰でも気軽に身に纏えるもののように錯覚させられているが、元々はそういう重荷を背負った、どこか人と違った輝きを持つ人がスターと呼ばれる存在だったはずだ。

おそらく8年前は気弱な少年だった前述のサカタタも、鋭い刃物のようなオーラをまとっている。理不尽なおもいを忍ぶことで磨かれた人間性が、彼らの顔にあらわれているのだと思ったのは、わたしだけではなかった。実はこの二人には、是非うちで雇用したいという申し出が殺到し、サカタタは映像プロダクション、ペギーは心理学研究家のアシスタントとして、既に就職先が決まっているという。

”炎上なくして裁きなし” インドネシアネット民のこういう時の一致団結ぶりはいいものだなといつも思う。まっとうに生きようとする人の方が、お金や地位を追及する人よりも尊く価値があるということが大多数の認識にならない限り、世の中よくならないよなと思った。