財産没収?デノミにかける国民の期待とは

通貨の桁が多いインドネシアでは、最高額面の紙幣が10万ルピア。
これは、日本の円の感覚でいえば千円札が最高紙幣のようなもの。

20年くらい前、住み込みのお手伝いさんに支払う給料の相場は、
二十万ルピアくらいだった。でも現在はもう、それは日給程度にすぎない。

十万ルピア昔は1万円札ぐらいの価値があったけれど、
現在はもう円感覚の千円札と同じくらいしかない。
1000ルピア以下で買えるものなんてほぼないし、
1ルピアになったとしても表示が変わるだけなら
別に問題ないように思える。

膨大な「ゼロ」の数は旅行者でなくても紛らわしい
会社や銀行では特に、この桁数の多さが複雑な問題になっている。
日々の業務で使う簡易版と、正式な資料の二つを維持しなければならないことや、
データ容量が大きくなり速度やエラーの原因になったり、
桁数を維持するだけのための容量を維持するコストもかかるそうだ。

インドネシア中央銀行が、デノミの検討を提案し続けてきたというのも最もな話。
実務的な利点にとどまらず、国際的な取引の場では、
桁数の多い通貨は、”経済が遅れている”というネガティブなイメージがあり、
これを刷新し、国際的な信用を上げるためにも、デノミを実施したいという。

ゼロの数が減ったという心理的効果によって、
特に家などの高額品の分野で消費を押し上げる一時的な経済効果も期待できるそう。

『デノミは資産没収と同じだ』などと言う人もいるけれど、
価値が変わるわけではなく、新しく発行されるお札の表示が変わるだけで、
新旧両方のお札の価値に合わせた価格提示が保証されるなら、
トルコリラやロシアルーブルのような経済成長につながる成功例もある。

失敗例で有名なのは、ベネズエラ。2008年から3回に渡って14桁を切り下げ。
日用品ひとつ買うにも、札束を積まなければならないほど下落した
通貨の価値を立て直すために行ったデノミが、益々信用を失うことにつながり、
さらに通貨価値が下落した。

ジンバブエの場合は、2008年に10桁、2009年には12桁を切り下げ、
それでもインフレが止まらず通貨停止。

こういう失敗例では、元々もうダメなところに
デノミがさらに追い打ちをかけ”資産没収のようなもの”になる。

インドネシアでも、かつてデノミに失敗した経験がある。
それは、1965年、初代大統領のスカルノ政権下で、
植民地時代から操業する外国企業を強制的に接収し、
国有化した途端に、生産力が大幅に低下。
外貨不足、物不足、ハイパーインフレーションの大混乱となった。
そのさ中でのデノミ、これはジンバブエのケースと重なる。

政府は 1,000ルピア→1ルピア の新札を発行、
給料は、3桁切り下げベースで支給されたのに物価は1桁しか下がらなかった。

当時、政府は、政策を徹底させる統制力を失っていた。
まさにスカルノ大統領がデウィ夫人を娶って3年後のことだった。
このときのデノミの影響はさらなる大混乱をもたらし、
大統領の失脚につながる大事件へと繋がった。

たかだか、桁数の表示を変えるだけなのに…
行う時期を誤ると政権転覆まで起こりかねないという大きなリスク。

それでは、現在インドネシア政府が検討しているデノミは、適切なのだろうか?
インドネシア政府は、2026~2029年の計画に、デノミ法案の実施を組み込んでいる。

とどまるところを知らないルピア安、多額の借金返済、経済は先行きが見えない。
実際、デノミどころではない状況だが、先ずは、必要な法整備や準備をすすめ、
経済環境を整える取り組みを図るとのこと。

9月に就任したばかり、主導する立場にあるプルバヤ財務大臣が、
汚職や不正行為の撲滅を推進していることで人気のある人物であり、
彼ならやってくれるのではないかという期待もある。

さらに、この”デノミ”計画には、政治・経済系インフルエンサーたちからの支持も
寄せられている。
彼らが注目しているのは、デノミを実施することによって、
隠された地下経済(ブラックマネー)や汚職資金を”無効化”すること。

汚職政治家が、家に貯めこんでいる、不正なブラックマネーや汚職資金を、
「新札への交換プロセス」で、炙り出す。

それは、新札との交換の際に、納税カードの提示を義務付け、
高額現金の入手元をチェックすることで可能だという。

次の大統領選挙、総選挙が実施される2029年の前のタイミングでデノミを行い、
前回の選挙のような、不正行為の横行が繰り返されることを防止することが
できるかもしれない。

現大統領もこの「前政権の汚職マネーの無効化」を図り、現大統領としての統制力を強めたい意図があるとみられている。

元大統領派のアイルランガ経済調整大臣は、この件に関して
「デノミを実施する緊急性はない」と早速コメントしている。
反対派は多いく国会承認も必要になる。

景気が上向きだった2017年に、デノミ案が提出されたときは、
国会で議論すらされなかった。
今回は政府の戦略的項目の一つとして計画されているとのこと。

以前、マッカサール大学の先生が学校の図書館で、
偽札を製造していたという事件があったが、そのとき、
透かしまで真似たATMでも検出できない
本物そっくりの偽札を製造するにはコストがかかるので、
10万ルピア札以下では紙代印刷代元が取れないのだ”
という話があったことを思い出す。

高額紙幣は偽造のターゲットになりやすいということがあるので、
デノミを実施するなら、より偽造されにくい新札にすることも必須条件となる。

桁数が少ない方が国際的に信用されるというのは、
そのことももちろん含まれている。
見た目の問題だけでなくそれに見合った実力が求められる。

政治家はあまりやりたがらないことだが、これこそ国民が求めているものでもある。
せっかく気運があるのであれば、是非このデノミ成功してほしいものだなと思う。


♯インドネシア経済 ♯デノミネーション♯ルピア通貨 ♯インフレーション

♯東南アジアニュース♯政治と経済


国立大学図書館内で製造された偽札 ATMでも検知できず





このブログの人気の投稿

ゴルゴ13に描かれたスシ海洋漁業大臣 ‐任期中に襲った悲劇とその後

大橋を渡ったらそこはC国だった 血も凍る土地収奪キャンペーン

元大統領の学歴詐欺疑惑 - 卒業証書偽造の真相は?

ソフトバンク撤退後どうなったヌサンタラ新都市移転計画

インドネシアジャカルタバンドゥン高速鉄道に責任追及の動き

インドネシア式沈殿コーヒーの楽しみ方

インドネシア無料給食プログラム 大量廃棄・集団食中毒連発の現実  

一夫多妻は合法なのか?スカルノ大統領の妻遍歴

ユネスコ指定公園でニッケル採掘という超愚策‐ EV車ビジネスの自然破壊力

お米が消えていたのは日本だけじゃなかった