貸し出した車に取り付けてあったGPSからの信号が途絶えたのに気付いたのは、オーナーの長男だった。3個装着したうち2個の信号が一度に消えたということは、故意に取り外されたに間違いない。残った1つのGPSの信号を頼りに、自動車レンタル店のオーナーと二人の息子、従業員数人が2台の車に乗って追跡に出かけたのは年が明けたばかりの夜10時過ぎだった。
問題の車が走行しているのを見つけたのは隣県の路上だった。”この車はだれのものですか”とオーナーが話かけると、乗っていた二人のうち一人がピストルを取り出し”どけ、俺たちは海軍だ。どかないと撃つぞ” と脅してきた。
”穏やかに話しましょうよ” レンタル店のオーナーは、この商売を始めてから十数年。もう何度も乗り逃げされそうになった車を追跡しては取り戻す経験を持つ。決して高飛車に怒鳴りつけたりしたわけではない。
穏やかでない雰囲気に、やじ馬が集まりはじめたそのとき、後方から黒い車が近づいてきて従業員らの乗る車に追突。そのどさくさに紛れて、問題の車も走り去っていった。そして深夜のカーチェイスが始まった。
相手は拳銃を持っている。途中、オーナーと息子たちはグーグルマップで最寄りの駐在所を探して立ち寄り、事情を説明し、相手は銃を持っているので同行してくれるようお願いすると、夜勤中の警官は、手続き上の理由で同行を拒否。署長に電話で尋ね、だめだと言われてもいたようだった。
そこでオーナーは、警官にものを頼むときの常識”お疲れ料”を差し出したが、それでも警官は断り、自分たちで探すよう促した ”ここへ連れてきたなら手助けできる。拳銃だって本物とは限らない”とまで言い放った。
残ったGPSが外されてしまえば車を取り戻すことが出来なくなる。警官の助けがなくても、オーナーと従業員らは追跡を続けた。例の車が高速道路のレストエリアに入ったことをGPSが示したのは明け方4時近く。従業員らは徒歩で、レストエリア内に駐車しているはずの問題の車を探し、コンビニエンスストアの前でそれを見つけた。
運転手は、仮眠をとっているらしい。従業員らは男を取り囲み、拳銃を差し出すよう詰め寄っていた。その時、背後から突然の銃声。少し離れたところに例の、あの黒い車が駐車していた。銃弾の音は4発5発。その一つが、オーナーの次男の耳たぶをかすめ、全員が散り散りになって逃げたので撮影していた画面もここで途切れてしまう。
銃声が止んだようだと恐る恐る戻ってきたとき、従業員の一人とオーナーが撃たれたことを知った。オーナーはコンビニエンスストアの中で倒れ床には大量の血が。胸を撃ち抜かれ、病院に運び込む途中で亡くなった。もう一人も左腕を撃たれ重傷。
現場の監視カメラ映像
警察は権力者や富裕層のためにあるもの。警察に助けを求めれば賄賂を要求され、通報すれば、通報者が逮捕される。期待するなといわれても、こういう場合に一体だれに助けを求めたらいいのか。
12月にも、ジャカルタでこんなことがあった。年に一度開催されるアジア一の大規模なダンスフェスティバル、世界的に有名なDJが出場するということもあり、タイ、マレーシア、シンガポール、をはじめとするアジア各国から、ジャカルタに飛来したファンたちが野外会場に詰めかけていた。
熱気あふれるステージの真っ最中、近づいてくる私服の警官は、麻薬取締官を名乗り、パスポートの提示を求め、尿検査を強要。結果が陰性であっても、パスポートを返す代わりに、二十万ルピア(二千円くらい)支払うことを要求してくる。場合によっては何千万ルピアも請求され交番に監禁されたり、翌日ホテルまで警官がやってきて支払いを強いられた観客もいた。
”こんな不快な体験をしたことがない” ”ジャカルタでのフェスはもう二度と行かない”
マレーシア人450人から巻きあげた金額は、3億2千万ルピア(320万円)にも上るという。被害者らは、帰国後ソーシャルメディア上でインドネシアの警官から受けたこの屈辱的な体験をぶちまけた。
警官の不正行為が横行しているのは何もインドネシアだけではない。しかし、どの途上国でも決してやってはならないルールというものがある。それは観光客にだけは手を出してはいけないということだ。悪い評判によって観光客の足が遠のけば、地域の経済に直接影響する。
以前、米国の有名歌手テイラースウィフトの経済効果ということが話題になったことがある。航空券、ホテル、レストランや観光やおみやげ、たった6日の公演だけでシンガポールの経済成長率を0.2%押し上げたという。
その時、シンガポール政府が、他のアセアン諸国で公演しないようインセンティブを支払っていたことについて周辺国と摩擦が起こったが、インドネシアも抗議した国の一つ。
フォーブスJAPAN2024年3月シンガポール首相、テイラー・スウィフトとの密約
AIによれば、東南アジア主要都市の首都圏人口は、ジャカルタ3400万人、マニラ1348万人、バンコク1400万人、ハノイ859万人、シンガポールは591万人。
人口からみた潜在性でいえばジャカルタで公演するのが最も効率がよさそうだけれど、残念ながら肌の露出が多い衣装がトレードマークのアーティストがやってくると聞くと、過敏な保守的イスラム教団体が抗議デモがおこす。
衣装に問題がなくても、LGBTを支持しているという批難され、英国のロックバンドコールドプレイが公演を取りやめたことがあった。それに比べて、このダンスフェスは電子音楽がメインで、文句のつけようがないイベントのはずだったが。
いつものことだが、炎上してはじめて国家警察が内部調査を始める。実行犯の警官18人が拘束された。事件発覚当初は異動処分だけで済まそうとしていたようだが、高官3人が国家警察の倫理裁判の結果、懲戒免職処分となった。部下がやったことは隠しようがなく、命令されたことも明確だ。
#Donald Simanjuntak
国家警察官候補生学校(Akpol)出身の超エリート。いくつもの地方警察署長を歴任し、
麻薬取締部高官としてはシンジケートから麻薬を押収するなどの功績もあげている。部下たちに、会場で麻薬陽性者をみつけるよう指示され、多く見つけた者には褒賞を約束していた。巻きあげた金を振り込む銀行口座名(弁護士名)まで指定していた。
こんな超エリートが3億ルピア程度のはした金を集めるためにわざわざこんな目立つところで騒動を起こしたとは考えにくい。とすると、ジャカルタのイメージを下げ、次回から開催地として外したい側からの依頼によるものだという説も、あながち陰謀論ではないようにもみえてくる。
前述のオーナー射殺事件でも、海軍特殊部隊のメンバー3人が犯人であることが分かった。軍は内部調査を行うとのことで、今のところ公開されているのはイニシアルだけだ。使用した拳銃も軍務のためにSOPに従って所持しているものとのことだが、躊躇なく一般人に銃を向け、頭や心臓を一発で狙って撃っているところが恐ろしい。
これはもう”個人的な犯罪”と言っていい範囲を超えている。このままでは、軍隊の武器を使って軍人が、窃盗を行い、警察もそれを容認しているということになってしまう。
ブラックマーケットでは、盗難品とあらかじめ分かっている車両が売買されているという。レンタル車に設置されているGPSは、車を分解しなければ外せないように設置されているが、そのGPSを外すサービスを提供する公告もフェイスブックなどで簡単に見つけられるそうだ。
インドネシアでのビジネス難易度が高いといわれるのも無理ないことだということをつくづく思い知らされる事件だった。
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