マラッカ・ジレンマ インドネシア財務相「通行料案」の背景にあったもの

「マラッカ海峡の通過船舶に課税できたら悪くない」

先月末インフラ金融シンポジウムでのインドネシア財務相の
この発言は、対岸のマレーシア、シンガポールからは冷たく拒絶され、
国際メディアからも「孤立を招く自殺行為」と袋叩きに遭った。

後日、大臣は「本気ではない。国際法違反などするわけがない」
と釈明。

「ホルムズ海峡封鎖に着想を得て、
とんでもないことを言い出す高官が出てきた。」
というような論調で報道されていたと思うが、

じつは、連日報じられているマラッカ海峡を巡る
ニュースを追ってみれば、
この発言が「単なる妄想から出た失言」というより、

じつは、実務派の財務大臣らしい
「痛烈な皮肉」だったということが見えてくる。

それはむしろ、失言というより、
失言の形を借りた「直言」

ホルムズ海峡封鎖の影響で
マラッカ海峡に何が起こっているかを
見ていこう。


1.イランタンカー封鎖宣言

最近、米軍対イランの大きな動きは、
4月中旬に「​イランの石油を運んでいる疑いのある
タンカーを強制的に調べる。反抗すれば攻撃する」
というような内容の声明があったこと。

マラッカ海峡は、​2月末から続くホルムズ海峡封鎖の影響を受けて、
過密状態が続いており、世界で最も混雑する海峡になっている。

ホルムズ海峡が封鎖されていても、イランの石油のいくらかは、
パイプラインを通して、海峡の外側にある港から、
夜の闇にまぎれ発信機を切り、インド外洋を遠回りするなどして、
中国に石油を送り続けている。

そこで米軍はマラッカ海峡の入り口や周辺に強力な艦隊を配備して
イランを出たタンカーを封鎖するという作戦に出ているという。

2.巨大艦船がマラッカ海峡通過

先日、米軍の艦船「ミゲル・キース」が
マラッカ海峡を通過した。

国際法には、軍艦が国際海峡を通り過ぎるだけならば、
通行してよいことになっている。

とはいえ、軍艦が、本当に通過するだけなのか?
勝手に軍事的な活動を行わないかどうか?

監視するのは、通過される側の国の責任、
主権を守るための権利であり、国家としての義務となる。

対岸のマレーシア側でも、領海を通過する
米軍の艦船を、追走監視した。

ただシンガポールの場合は、状況が違ってくる。
シンガポールには、米軍が物流補給のために、
常駐・利用している基地がある。

太平洋を渡ってきた船艦は、ここで
給油し、消耗品、食糧や水なども補給、
数千人の水兵が一斉に上陸する。

船艦が停泊する数日間は、シンガポールの
ホテルや高級レストラン、バーや買い物、タクシー利用など、
莫大な外貨を落とす巨大な商機となる。

対照的に、インドネシアには、
米軍の戦艦通過は「純粋なコスト負担」でしかない。

米軍艦が海峡を通過するたびに、
安全確保や万が一の事故、テロ対策のために、
自国の海軍や沿岸警備隊を出動させ、
並走し、警備を固めなければならない。

シンガポールのような「経済的見返り」は
なにもない。

「なぜ我々だけが、他国の利益と安全のために
無償で奉仕し続けなければならないのか」という、
受益者負担を無視した国際秩序への
異議申し立てだったと言える。


3.渋滞するマラッカ海峡

そうでなくても、船が列をなし、
速度を落として通過する
マラッカ海峡の「渋滞」は、
海賊にとって絶好の標的となっている。

監視側にとっては、ターゲットが密集し、
パトロールの密度をさらに上げなければならない
悪循環を意味する。

国内問題なら効率化で通すが、
世界経済の動脈で、監視の手を抜き、事故やテロを許せば、
国際的な信用失墜は免れない。

通航量が増えれば増えるほど、シンガポールの港湾収入や
米軍艦の補給効率は上がるかもしれない。
しかし、周辺国での「監視コスト」は膨れ上がっていく。

「どれだけ通れば気が済むのか、そしてどれだけ我々に負担させるのか」
大臣の脳内にあったのは、この極めて実務的な収支計算だろう。

4.ロンボック海峡

​中国は、米軍がこの海峡を封鎖するならば、
エネルギー供給が止まるというリスクを、
20年も前から想定し、

パキスタンやミャンマー経由のルート、
あるいはタイ地峡の運河構想など、
「一帯一路」を掲げてきたが、
現時点ではマラッカ依存から脱却できていない。

この「マラッカ・ジレンマ」から懸念されているのが、
もう一つの航路であるロンボック海峡だ。

水深の深いロンボック海峡は、これまでは、
マラッカを通過できない超大型船のルート。

じつは4月初め、この海峡近くで
「中国製と疑われる無人潜水機(水中ドローン)」が
発見されている。

米軍のレーダーを回避して航行するための
「精緻な海底地図」を作成していたという。

他所の国の領海内でもまるで、自分の庭のように
活動する抜け目なさ。

対照的なのは、大国が最新鋭の機材を用いて
「海底の覇権」を争っている一方で、
その決定的な証拠を見つけたのが、

高度な防衛システムを備えた海軍ではなく、
地元の「漁師」だったという事実だ。

5.イランタンカーが通過

直近では、米軍の監視を潜り抜けたイランのタンカー2隻が
ロンボック海峡を通過し、
現在、中国に向かっているというニュースが
報じられている。

米軍はこれらを「制裁対象」として追跡し、
インドネシア側は「無害通航」として見守るという。

国際法(UNCLOS)は「無害通航」を認めており、
インドネシアが独断で止めれば、
今度は国際法違反の汚名を着せられるかもしれない。
一方で、アメリカからの圧力がかかる。

​インドネシアの財務大臣が「マラッカ海峡での課税」
という国際法を逆なでするような暴論を、
なぜこのタイミングで、しかも
インフラ金融の専門家が集まる場で口にしたのか。

注目が集まっている今だからこそ、
多くの人に知ってほしいと思う。

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