バティック幾何学模様の深い意味

ろうけつ染めならではの、味のある線で描かれたひし形の真ん中に、規則正しくボタンのように描かれた小さい絵柄。卵、さなぎ、蝶々、といった成長の変化の過程の象徴が繰り返し描かれるデザインは、結婚や出産、卒業、就職など、人生の重要な節目、特に新しい門出を祝う際に着用されるシドムクティと呼ばれる。

それらを囲む四角や丸の単純な線で描かれた幾何学模様は、秩序と安定を表し。蝶々が成長するまでのプロセスが、安定して秩序ある中で行われるようにという願いが込められている。また、図形の内側いっぱいではなく、余白をとって控えめに絵柄が配置されていることにも重要な意味がある。

それは、安定の中にいても奢り高ぶらず、謙虚に忍耐強くプロセスを進みなさいという励まし。



ヤシの実など殻が固く中に空洞のある果実が重なる円形の幾何学模様は、カウンと呼ばれる。円形は人間の一生を表し、固い殻は、自分を守り育ててくれた恩を忘れてはならないという戒め、果実の内側に空洞があるのは、偏った意見や欲望に振り回されることなく、心を空しくして中立であれという意味。

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インドネシアの観光省のホームぺージで紹介されている伝統文化、バティックのデザインについての説明を読んでみたらとても奥が深かった。


元々は王族だけが着用するものであったバテイックが、一般人にも着用されるようになったのは、オランダ植民地統治時代から。伝統衣装として、腰に巻く一枚布として使用されるものであったバティックを現代的にアレンジした、バティックシャツ。ネクタイと同等またはそれ以上のフォーマルな服装として通用するようになったのは、インドネシアの独立・民族主義運動に関係がある。

オランダ人が、権力者の象徴として白いシャツを好んで着用していたのに対抗して、最下層階級として扱われていたインドネシア人が、西洋に同化しない心意気を表すために、知識人や学生たちが、率先してバティックのシャツを着用した。この伝統は、独立を達成した時にも引き継がれている。

現代は、キャビンアテンダントやレストラン店員のユニフォームになったりもしているけれど、一般的には式典や結婚式、会社勤めでもバティック着用が必要な機会は多々ある。また、小学生の頃から、どの学校でも週に一度のバティック着用日があり、その日は校長先生も先生も用務員さんも全員がバティックを着用する。

子供の頃からバティックを着用することで、時と場合と場所(TPO)をわきまえた服装を選ぶことや、礼儀や立ち振る舞い、国民としての意識を高めるという目的、その他にも地域のバティックの職人さんを経済的に支援し、地域の産業振興につなげるという目的がある。

バティックは材質やデザイン、半袖・長袖などによって、セミフォーマルからフォーマルまで様々な使い分けが出来る。安価なプリント生地が圧倒的に多いのはそうだけれど、地位のある人はやはり手の込んだ手作りのバティックシャツを、時と場合に応じて備え、揃えることが紳士のおしゃれになっている。

王宮由来のバティックの他にも、全国に300存在すると言われる民族又は地域によってそれぞれの物語を持つバティックが存在する。漁業中心の地方では、海の生物や波など、海への感謝や畏敬の念を示すもの、平地の広がる穀倉地帯では、豊穣祈願や雨ごいを表す雲の模様、バリでは、ガルーダやバロンといった神話上の生物、古くから貿易の盛んだったジャワ島北岸では、中国やベトナムのデザインの影響もみられる。

大統領が地方を訪問するときは、その地方の伝統的なデザインのバティックを選ぶことが鉄板であるし、国際会議などでも、ネクタイ姿の他国のリーダーたちに交じってバティックを着用することで、自国の文化や伝統を守る姿勢をアピールしている。

シャツとしての型は同じでも、それぞれの民族の伝統的なバティックデザインを許容することによって、アイデンテティーは失わないというところが、インドネシアの国家原則の一つ”多様性の中の統一”の原則とも合致しており、バティックを着用すること自体が、パンチャシラ(国家原則)の精神を表すものだという。

なるほど、伝統保存のために伝統衣装を日常的に着用するというのは、実践が難しい。しかし、現代的な服装にアレンジすれば、着用する機会はずっと増える。ましてやそれが正装とみなされるのであれば、ネクタイ背広よりもずっとオシャレの幅が広がるし、伝統織物の確実な需要が生れる。

バティック式の伝統保存策を着物でも取り入れられたらいいのになあと思う。気候変動を理由に政府が推奨するだけで、ネクタイ背広から切り替える人が一気に増えるような気がする。

(終)

2024年世界腐敗支配者ランキングにジョコウィドド元大統領ランクイン

国際的な調査報道ネットワークOCCEP(組織犯罪と腐敗報道プロジェクトが発表した、2024年の世界腐敗人物ランキング第二位にインドネシアの7代目大統領、ジョコ・ウィドド元大統領がランクインした。

1.ケニアのウィリアム・ルト大統領
2.インドネシアのジョコ・ウィドド元大統領
3.ナイジェリアのボラ・アハメド・ティヌブ大統領
4.バングラデシュの元首相シェイク・ハシナ
5.インドの実業家ガウタム・アダニ

同組織は、2016年に世界を震撼させたパナマ文書、世界中の政治家や富裕層が、タックスヘイブン(租税回避地)を利用して巨額の資産を隠していた実態を暴き出しの調査報道において重要な役割を果たした世界中のジャーナリストの組織。

世界的に腐敗で名を知られた二代目大統領のスハルト元大統領以来、インドネシアでは二人目の、汚職で世界的に名を知られる元大統領となった。過去には、ベラルーシのルカシェンコ大統領、ブラジルのボルサナロ大統領、などもランキングされた調査とのことだが、果たしてどうなるか。

この調査では、汚職金額だけでなく、組織的犯罪、不正選挙、人権侵害、自然破壊、への関与度も評価の対象になる。2025年から消費税が12%になる。生活必需品は増税しないと政府は説明しているが、一体どうなることやら。

明るいニュースに乏しい中、ジョコウィドド氏のランクインは、国民にはささやかな朗報として受け止められている。

ランクインの感想を報道陣に尋ねられても、いつも通り笑顔ですっとぼけるジョコウィドド元大統領


国立大学図書館内で製造された偽札 ATMでも検知できず

大型高性能の大量印刷機は、深夜、フォークリフトで運び込まれた。壁には防音材を施し、外からはかすかに聞こえる程度。図書館長が自ら”本を印刷している”と説明すれば、それ以上尋ねる者はいなかった。

インドネシア第七番目の都市マッカサールにある宗教省管轄下の国立大学。近くの町で偽札を所持し逮捕された男の証言から、警察が、同大学の図書館を捜査したところ、使用されていない元トイレ2X4メートルのスペースいっぱいに置かれた高性能大量印刷機が発見された。

印刷機の他に押収されたものは、印刷に使用したとみられるインクの缶やアルミニウム粉末、デジタル計量器、紙幣を切断する機器、未切断のルピア紙幣446百万ルピア相当、韓国ウォン5,000札、ベトナムDong500 札などの海外紙幣、インドネシア銀行の定期預金証明書のコピー 45兆ルピア相当 1枚インドネシア国債 700兆ルピア相当など。

報道によれば、総額1000兆ルピア相当。これはインドネシア国家予算の三分の一にも相当する。これは、印刷済みの偽札の金額もさることながら、巨額の、預金証明や国債が印刷されているというのは、国としてヤバい。

これまでに図書館長を含む17名が逮捕されているが、偽札を市場の紙幣と交換して報酬を得ていた主婦や、図書館長に雇われて製造の手伝いをしていた一般人以外に、国営銀行の職員2名や、国家公務員4名、が含まれている。

また、この逮捕の11日後に、大学職員の一人が突然死している。関係者として自分の名前が出たことがショックで心臓発作を起こしたと報道されているが、イニシアルや年齢すらも公表されていない謎の人物だ。

現在報道されている情報は、首謀者とされる図書館長の警察に対する証言によるものがほとんど。彼は、大学の正職員であり、図書館学の講師、博士号も持ち、大学外でも活躍するアカデミックな表の顔、その裏で2010年以上も前から偽札印刷に関わっていたという。

以前は、出資者とみられる実業家の自宅で小規模な印刷機を使用して偽札を製造していたが、より大量に印刷する必要性があり、高性能オフセット印刷機GM-247IIMP-25を、6億ルピア(600万円ほど)で中国からスラバヤ港を経由して直輸入、大学の図書館に運び込んだのは2024年9月。

出資者とみられる実業家宅についても、警察は既に捜査済み、紙幣を印刷するための紙を購入した履歴や、図書館館長に渡していた証拠もあるとのことだが、未だ指名手配中である。地元では名を知らない人はいない名士として市長選にも出たことがあり、2024年11月に行われたばかりの地方首長選挙にも出馬しようと、宗教系のとある政党と交渉していたことが分かっている。

図書館長もまた、別の県の知事に立候補しようとしていたことが、現場に残ったプロポーザルの冊子から分かっている。但し二人とも、立候補推薦してくれる政党がなかったので、出馬を諦めた。ということは、もしも二人が立候補していたら、偽札が大量にばら撒かれるところだったのだろうか?

大学で印刷された紙幣は、精巧につくられていてX線でも見分けることが困難だという。”ケータリングの支払いが偽札だった” ”給料が偽札だった” はまだしも”ATMから引き出したばかりの紙幣が偽札だったという話には大混乱。

人口150万人(川崎市の人口と同じくらい)の地方都市マッカサールでは既に偽札が多量に出回っている。現地にあるATMブースのガラスの扉に貼られた、偽札の見分け方についてのガイダンスは結構複雑だが、引き出した紙幣を自分でチェック、自分で通報しなければならないルールになっている。

紙を購入した履歴がわかっているのなら、どれだけの量が流通したのか計算してほしいところだが、現場にあった偽紙幣以外の情報はでていない。実は、指名手配中の実業家は、自らは出馬しなくとも、スラウェシ南州で圧勝した候補者の、成功チームのメンバーとして選挙キャンペーンで活動しており、選挙活動で偽札が使われたのかどうなのかということも気になる。

この事件の報道で、印刷のための紙もインクもなんでも中国製で入手できるということがわかった。印刷機さえあればいくらでも刷れてボロ儲けできる。汗水流して働くのがばかばかしく感じられるような印象だが、実は、本物そっくりの精巧な紙幣を印刷するためには、インクや紙といった製造コストがかかるので、十万ルピア札(千円くらい。ルピアで最も高額の紙幣)より小さい額の紙幣(5万ルピア札)を刷れば、製造コストの方が高くついてしまうらしい。

とすると国立大学の施設内で印刷することは、安全だからという目的だけでなく、実は電気代を削減する目的もあったに違いない。この事件により、図書館長は即、解雇され、学長は、”全く知らなかった。裏切りだ”と声を荒らげ怒りの演説を打ち、学生は学長の辞任を請求する。優秀な社会人を世に送り出すための大学で、優秀な偽札が送り出されていたという皮肉な話。




インドネシア地方首長選挙の真相 ジャカルタでは勝てなかった元大統領の支持する候補者

11月27日に行われたインドネシア全国統一地方首長選挙について、日本語メディアでは ”大統領と元大統領の支持する候補者が勝利”という点に焦点をあてた形で報道されているが、これは、2024年の大統領選挙戦からの流れを抜きにしては理解することができない。

まず、スハルト独裁政権崩壊後、民主化時代の歴代大統領が、自らの後継者を決める大統領選挙や、地方首長選挙に介入し、自身の側近や身内をゴリ押しするというようなことはこれまでになかった。

後の政権の負担にならないよう、重要な決定や人事も、退任間近になれば控えるのが最高権力者としての威厳というもの。少なくとも6代目ユドヨノ大統領は中立の立場を通した。しかし、7代目大統領のジョコ氏は違う。

自身の後継者を決める大統領選挙の選挙運動機関、2023年の後半ごろから始まったジョコ氏の権力の乱用とは、国家予算の私物化、地方首長や警察を動員、ばら撒き・恐喝、データの操作・・・

そのような暴走を許さないという理想に基づいて設置されているのが憲法裁判所だが、現職大統領の違法行為に対しては無力であるということが明らかになった。不正選挙は判決によって証明されず、現役大統領の推薦するプラボゥオ氏とジョコ氏の長男が政権を握ることになった。2024年大統領選挙の結果と茶番だった憲法裁判

残りの大統領任期中を通し、ジョコ氏は選挙関係のある政府機関の報酬アップや表彰、人事の入替えを次々と行った。さらに、自然破壊・国土縮小につながる砂の輸出許可や、実業家の利益にしかならない大規模土地開発を国家プロジェクトに認定すると、国家機関による強制的な土地の取り上げと、地元民との間の紛争が、これまでもあったが更に激しくなった。

その目的は、選挙に協力した側に約束された報酬、又は恩を売る行為であることは明らかで、この報道と同時進行で、ヌサンタラ首都移転計画の杜撰さ、違法鉱山開発の実態、経済効果のない対外債務を無責任に膨らませたこと、大臣や税関職員の汚職の実態も次々と暴露された。

国民はもう以前のように”ジョコウィ大統領”と呼ばなくなった。ジョコ氏が幼い頃、病弱であったために改名したというエピソードを引用し、改名する前の#Mulyonoという名前で呼び捨てにするのがネット民の隠語になっている。

ジョコ氏は、10月で大統領の任期を終えた後、その後もプラボウォ氏を通して権力を維持し、5年後の大統領選挙には、副大統領の長男を大統領に当選させ、ジョコ氏が復権、一族支配を更に推進するという計画を持っている。

地方首長選挙は、その計画のステップとして、ジョコ氏の次男をジャカルタ州か、中部ジャワ州の知事に、そして娘婿を北スマトラ州知事に当選させようとしていた。

最高裁判所による特令に基づいて、法的な年齢条件を満たしていない次男を、地方首長選挙に候補者として登録させることがほぼ決まっていたが、その登録開始日の1週間前、憲法裁判所が、最高裁判所の特令が無効であることを宣言した。

選挙法に関する権限は、法律上、最高裁判所ではなく憲法裁判所のもの。ジョコ氏は、即座に、国会に新しい法律を可決させて、さらに、その憲法裁判所の判決を無効にしようと試みたが、全国一斉”緊急アラームデモ”により阻止されたのだった。法案通過を断念させたエマージェンシーアラームシステムとは

ジョコ氏の次男に代わってジャカルタ州の候補者になったのが、元西ジャワ州知事カミル氏。建設デザイナーで街をおしゃれにするみたいな触れ込みでバンドン市長として有名になった人物だが、特に目覚ましい成果もなく、ジャカルタで闘うのは難しいという評価があった。

しかし与党連合にとって、そんなことはあまり問題にはならなかった。というのも、大統領選挙の際の政党連合(KIM連合・与党連合)に、元アニス派の政党を加え、国会に議席を持つほぼ全ての政党14党が連合を組んで、ジョコ氏の推薦する候補者が、対戦相手なしに勝利できるよう、準備されていたからだ。

ところがこの準備も、憲法裁判所のもう一つの判決、議会議席数の比率を低減する判決によって台無しになった。連合に加わらない只一つの政党、闘争民主党が、単独で候補者を立てることが可能になったのだった。

闘争民主党は、ジョコ氏を政治家として育てた政党でもある。無名の実業家だったジョコ氏を、地方都市の市長から大統領への階段を用意し、2020年にはジョコ氏の長男をソロ市長、娘婿をメダン市長、へと出馬するチケットを与えたのも、闘争民主党だった。

一方で、大統領就任後のジョコ氏は、他の政党と接近し、政権2期目の人事をみれば明らかなように闘争民主党とは相容れない、独自の路線をとるようになっていった。

闘争民主党との敵対関係は、2024年2月の大統領選挙で明確になった。ジョコ氏は、闘争民主党の地盤である中部ジャワ州やスマトラ州で集中的に、村長らを動員しノルマを課し、闘争民主党の票田を徹底的に潰した。村長らを監視し、従わない村長は村予算の不正使用の件で逮捕すると脅すのが、地方警察の役割。

その結果、闘争民主党の候補者、中部ジャワ州知事を二期務めた実力派、ガンジャル氏の得票率結果はたったの16%で大敗するという非常に理不尽な結果に終わったのであった。その後の地方首長選挙でも”ガンジャル化”という造語が使われている。人気のある本命候補者は、権力者から目の敵にされ潰されるという意味をもつ。

ジャカルタ首長選挙前に、本命として名前が挙がっていたのは、大統領選にも出馬したアニス氏、又は、華人系キリスト教徒宗教侮辱罪で2年の実刑を受け刑期を終えているアホック氏。しかし、どちらも、ガンジャル化される可能性が高く、出馬は叶わなかった。

そこで白羽の矢がたったのが、現役大臣でもあったプラモノ氏。ジョコ氏との関係が悪くなく、言うなりでもない全くのノーマークの闘争民主党幹部。副知事候補も元コメディアンでバンテン県で知事の経験もあり、ジャカルタに馴染みのある人物。

与党連合の政党は、カミル氏を支持する約束にはなっているものの、本心では自分たちの党から候補者を出したかった、カミル氏が好きじゃないなど、それぞれの思惑があり、足並みがそろわなかった。

大統領選挙の時と違った点は、調査会社のアンケート結果の足並みがそろっていなかったこともある。一社を除くアンケート調査の結果では、プラモノ候補の方が圧倒的に優利だという結果だった。

ジャカルタ州知事というのは、メディアでの露出度が高く、注目度が高いので、ジャカルタ州知事として全国的な知名度を上げることが、大統領への王道となる。自身が、その王道を通って大統領に上りつめたのだったが、ジョコ氏は、闘争民主党からジャカルタ州知事を出すことをなんとしても阻止したかったようだ。

プラボウォ大統領の方はというと、闘争民主党のメガワティ党首とは長い付き合いで、現在最も国民から支持されている大政党と諍いを起すつもりもない。積極的にカミル氏を応援しているわけでもなさそうだったが、投票日前の、活動禁止期間中には、”カミル氏に投票するよう勧める書面を発行した。

ジョコ氏の後押しで大統領選に当選したプラボウォ氏が、ジョコ氏との間に何らかの約束を交わしていることは周知の事実。就任後も、ジョコ氏に会うため何度もソロ市に足を運んでおり、その直後の行動がいつも注目されている。

この書面が出されたのは、選挙活動禁止期間中であったというところから、相当な焦りが感じられる。ところで、既に大統領であるプラボウォ氏にとって、あれこれ指図してくるジョコ氏は、既にうっとおしい存在であり、表面上は従うようにみせておいて、そのうち手を切る時はそう遠くないのではないかとも言われている(期待されている)

ジャカルタ州知事の選挙結果は、プラモノ氏が一位、二位のカミル氏とは10%以上もの差をつけた。闘争民主党は、ジャカルタの他に、バリ州、バンドン市を含む、全国37州、全国37州の内14州、508の県・市のうち249の地方首長を当選させた。

確かに連立与党の推薦した候補者の方が勝った地域の方が多いが、たった1党だけで闘った闘争民主党は却って、以前より多くの地方首長を当選させている。それは、元大統領の目指す一族支配を拒否する国民の意志表示でもある。

与党連合の支持する候補者が勝利した、中部ジャワ州、西ジャワ州、北スマトラ州、バンテン州などでは、直前のアンケート調査の結果と、投票結果が逆転するという、非常に不自然な結果であった。

そこで出てきた言葉が#Partai choklat「茶色党」の影響。茶色というのは、警察の制服。
元大統領の支持する候補者が勝利した地域は、茶色党の勢力範囲でもあるという話。

前回の大統領選挙の頃はまだ、ジョコ大統領の人気(ばら撒き)のお陰で勝利したと言うこともできたが、元大統領に支持されることが却ってマイナスの影響であることがはっきりとしている今、茶色党の活動に注目があたっている。

ジャカルタ州以外の地方首長選挙結果の話は別に書く。


東南アジア発 オンラインカジノの猛威

ほんの数分間で、100円が5万円に。この快感を一度覚えると、お金を手にする度に、同じことを考えてしまうようになる。それまでの掛け金なしのオンラインゲームでは物足りなくなり、給料が入れば全額を課金してしまう。

最近は、身分証明書をアップロードするだけで借りられるオンライン金融というのが普及していて、オンライン賭博のアプリが入った同じスマホを使って、容易く一線を越えてしまうことが出来るようになっている。引き出せるだけ引き出す一方で、友人知人への借金、身の回りの品々を売り払う。

”深夜、1~2時頃、金貸してくれとラインしてくる友人がいたら、そいつは間違いなく、オンライン賭博にはまっていると思っていい” 友達、信頼を失うだけでなく、全財産をつぎこみ、経済困難と借金取りがやってくる。ついに一家離散、ここまでになっても依存症から中々抜け出すことができない。

多幸感や快感をもたらす神経伝達物質ドーパミンが急増を繰り返すと、意思決定と自制心をつかさどる前頭前皮質領域に、物理的な損傷が生じるため、依存症から抜け出すことは物理的に困難になる。また身の程に相応した金額上限というストッパーも外れてしまうことも特徴の一つ。

取返しのつかない状況に落ち入れば落ち入るほど、そしてそれを自覚すればするほど ”勝ちさえすれば、全てを一度に清算できる”といった思い込みに傾倒し、つぎ込む金額も増していく。

依存症の治療のために精神科を受診する患者のほとんどが、”絶対に勝てる方法は分かっている”と思い込んでいるが、実は、オペレーターの設定するアルゴリズム一つで決まるのだ。

オンライン賭博運営者にとって、利用者の精神状態をモニタリングすることは、オンラインカジノ運営の重要なノウハウの一つである。

利用者がスマホを変えた(お金がないから売った)又はオンライン金融から借金した金額情報を、オペレーターは全てリアルタイムで把握しており、最初は適当に勝たせるが、借金してまでつぎ込んでくるようになったら、勝ちを与える必要はなし”という運用になっている。

人間の欲望と心理を徹底的に研究しつくしたオンラインカジノ運営のノウハウは、特別な専門知識がなくても誰でも資金さえ出せば参入できるよう、既にフランチャイズ化されており、その世界的な拠点は、中国南部、又はカンボジアにあるという。

そして最も騙されやすいのがインドネシア人。東南アジアのオンラインカジノ利用者ランキングによると、インドネシアが二十万人でダントツの一位、二位のカンボジアは二万人台と一桁違う。

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金融取引報告分析センターという国家調査機関によると、インドネシアのオンライン賭博取引額は、2022年81兆ルピアから、2023年には327超ルピアと、4倍にも激増した。そして2024年第2四半期で既に300兆ルピア、そして現在第4四半期には900兆ルピアにも達している。

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利用者が激増した背景には、初回の課金金額が、五十万ルピアから、子供のお小遣い程度の1万ルピアに大幅に引き下げられたことがある。調査によれば、利用者は二百三十七万人、被害者は880万人そのうち80%が低所得者層、未成年が13%、そのうち2%が10歳以下の子供だという。

有名人やインフルエンサーによるオンラインカジノサイトへの誘導動画をみてみると”公認のアプリ” ”すごい簡単、プロモが沢山”などと全く同じ台本になっている。まさかあの人がと思うような大御所のアーティストまでそのような動画に出ていた。一般人の場合は、大勝する実況中継、贅沢品の自慢、こういう定型もパッケージの一つ。

しかしながら、900兆ルピアといえば国家予算の三分の一にも相当する恐るべき金額である。国内で使用すれば、収益となり、雇用機会を生むはずの資金が、海外へ流出し消えているのだから景気が良好なはずがない。収入が減ったこと、社会への不満、どうやって補うかを考えるストレス。オンラインカジノに手を出だすきっかけについて大抵の人が言うこともまた定型がある。

実際インドネシアでは、進学もせず、就職先も見つからない、Z世代の失業者が世代人口の2割以上にあたるということが問題になっている。日本に実習生として働きに行く若者も急増しているが、国内にはその何倍もの、働きたくても雇用先のない人が急増している。

高額の報酬を得られるという話につられて観光ビザで出国し、タイで働くはずが、バスでミャンマーに連れて行かれ、帰国できなくなったインドネシア人が、外務大臣に助けを求めた動画が一時期話題になったことがあった。

彼らの仕事は、アジア各国から、自分の国の国民をターゲットにした振込み詐欺のかけ子。長時間労働、目標を達成できなければ電気ショックガンの罰、〇器売買組織に売り飛ばされると脅される。

#WNI di myammar minta tolong

”タイやカンボジアに出稼ぎをあっせんされても行かないように” 外務大臣が注意を呼び掛けていたこともあった。最近は、オンラインカジノで働くオペレーターも、同じような状態にあるらしいことがわかってきた。

オンライン賭博運営が違法でないと言われているカンボジア(法律上は禁止されているらしい)には、インドネシア人をターゲットとした、インドネシア人が出資し運営するオンラインカジノの拠点が無数にあり、現在、10万人ものインドネシア人が違法に就労しているということが、出入国の記録からわかっている。

政府の対策はというと、大統領の命令でオンラインカジノ撲滅委員会を組織し、通信大臣によれば、3百万もの賭博サイトをブロックして対策をとった”という。しかし、第2四半期で、すでに昨年の総額300兆ルピアを超えていたオンラインカジノ取引総額は、その後も激増し11月には900兆ルピアにも達しているということは、全く効果がなかったことがはっきりしている。

依存症の夫にガソリンをかけて火をつけた(警察官の夫婦だった)事件、顧客の口座から現金を引き出していた銀行員、オンライン詐欺で逮捕された主婦、自らの命を絶つ軍人など、オンラインカジノに関係する凄惨な事件は後を絶たない。

#istri bakar suami

どさくさまぎれに、オンラインカジノ被害者に、政府が貧困者支援金を提供してはどうかと言う案が出たが、これは対策ではなく、促進策だ。日本でも一時期あったホスト被害者に政府が支援金を提供する案がでたことがあったのを思い出し、同じ発想だなと思った。

金融取引報告分析センターはまた”千人の国会議員、地方議会議員が、オンラインカジノの利用者である” と発表している。(同センターの権限は報告するだけで、調査の権限はない。名簿と明細を、執行機関である汚職撲滅委員会や警察、検察庁に委ねるのみである)

#PPATK ungkap 1000 anggota dewan main judi online

オンラインカジノの利用者が、政治的権限のある人物だと一般人と何処が違うのだろうか?議員が、依存症になったり、破綻したという話は聞いたことがないが、もしかすると、別の運用ルールが隠されているのかもしれない。

不正に得た利益を隠蔽するための格好の投資先になっていることは公然の秘密で、これらは、不正選挙の資金源にもなっている。不景気からくるストレスで、オンラインカジノに手を出す一般人、不正に儲けたお金で、無能な政治家が権力を独占、さらに国民を苦しめる政策を推進し、格差が拡大されるという悪魔のスパイラル。

実は、10月後半に新政権が発足し、大臣が交代してまもないタイミングで、通信省の職員11人が逮捕されるという一大スキャンダルが発覚した。逮捕されたオンラインカジノの運営者が所持していたスマホの履歴から、違法なサイトを閉鎖する権限を持つチームの職員が、カジノ運営者と頻繁に連絡を取り合い、報酬を受け取っていたことが発覚したのだ。

閉鎖しなければならない5000件のサイトのうち、1000件のサイトだけを残し、さらに通信省外部のサテライトオフィスから、閉鎖されないよう監視していたという。当時の通信大臣の任期は1年にも満たなかったが、逮捕されたチームを採用したのはこの大臣だ。中には公務員テストに不合格だったにもかかわらず採用されたメンバーもいる。

#Kasus komdigi judi online

インドネシアの通信省にはその他にも怪しげなところがあって、やはり数カ月前ぐらいに、一括管理していた国と地方政府のデータサーバーがハッカーに盗まれ、機能不全になったことがあった。バックアップをとっていなかったとか、政権交代の前に不都合なデーターを消すための自作自演であるとか、盗まれたデータは既に落札されているなどという噂がある。

#pusat data nasional diserang

この手の複雑で闇の深い事件は一筋縄で解決できる問題ではない。

それでも、通信省の嘘を暴くIT専門家の動画チャンネルと、元オンラインカジノオペレーターから回心した説教師の知名度が急上昇したこと、

高級腕時計をはめ、高級車を買いあさり、毎月のように海外旅行に出かけたり(それまでは借家に住みオートバイで通勤していたという)通信省若手11人の急上昇な暮らしぶりが(職場でも浮いた存在だったという)ほんの束の間だったことなど、

一般人にとって学ぶところは沢山あったと思う。

【高齢夫婦刺傷】被害夫婦の妻への殺人未遂容疑でインドネシア国籍の男逮捕…近隣住民は安ど(静岡・掛川市)

11月末に、静岡県掛川市で24歳のインドネシア人男性が、高齢夫婦宅に侵入、刃物で切りつけたというニュースがあった。こちらでは、”オンラインカジノで遊ぶ金が欲しくてやったと自白した” と、はっきり書かれているけれど、日本語のニュースでは動機は不明だと書かれているのは何故なのか。ちょっと気になる。