2024-12-24

国立大学図書館内で製造された偽札 ATMでも検知できず

大型高性能の大量印刷機は、深夜、フォークリフトで運び込まれた。壁には防音材を施し、外からはかすかに聞こえる程度。図書館長が自ら”本を印刷している”と説明すれば、それ以上尋ねる者はいなかった。

インドネシア第七番目の都市マッカサールにある宗教省管轄下の国立大学。近くの町で偽札を所持し逮捕された男の証言から、警察が、同大学の図書館を捜査したところ、使用されていない元トイレ2X4メートルのスペースいっぱいに置かれた高性能大量印刷機が発見された。

印刷機の他に押収されたものは、印刷に使用したとみられるインクの缶やアルミニウム粉末、デジタル計量器、紙幣を切断する機器、未切断のルピア紙幣446百万ルピア相当、韓国ウォン5,000札、ベトナムDong500 札などの海外紙幣、インドネシア銀行の定期預金証明書のコピー 45兆ルピア相当 1枚インドネシア国債 700兆ルピア相当など。

報道によれば、総額1000兆ルピア相当。これはインドネシア国家予算の三分の一にも相当する。これは、印刷済みの偽札の金額もさることながら、巨額の、預金証明や国債が印刷されているというのは、国としてヤバい。

これまでに図書館長を含む17名が逮捕されているが、偽札を市場の紙幣と交換して報酬を得ていた主婦や、図書館長に雇われて製造の手伝いをしていた一般人以外に、国営銀行の職員2名や、国家公務員4名、が含まれている。

また、この逮捕の11日後に、大学職員の一人が突然死している。関係者として自分の名前が出たことがショックで心臓発作を起こしたと報道されているが、イニシアルや年齢すらも公表されていない謎の人物だ。

現在報道されている情報は、首謀者とされる図書館長の警察に対する証言によるものがほとんど。彼は、大学の正職員であり、図書館学の講師、博士号も持ち、大学外でも活躍するアカデミックな表の顔、その裏で2010年以上も前から偽札印刷に関わっていたという。

以前は、出資者とみられる実業家の自宅で小規模な印刷機を使用して偽札を製造していたが、より大量に印刷する必要性があり、高性能オフセット印刷機GM-247IIMP-25を、6億ルピア(600万円ほど)で中国からスラバヤ港を経由して直輸入、大学の図書館に運び込んだのは2024年9月。

出資者とみられる実業家宅についても、警察は既に捜査済み、紙幣を印刷するための紙を購入した履歴や、図書館館長に渡していた証拠もあるとのことだが、未だ指名手配中である。地元では名を知らない人はいない名士として市長選にも出たことがあり、2024年11月に行われたばかりの地方首長選挙にも出馬しようと、宗教系のとある政党と交渉していたことが分かっている。

図書館長もまた、別の県の知事に立候補しようとしていたことが、現場に残ったプロポーザルの冊子から分かっている。但し二人とも、立候補推薦してくれる政党がなかったので、出馬を諦めた。ということは、もしも二人が立候補していたら、偽札が大量にばら撒かれるところだったのだろうか?

大学で印刷された紙幣は、精巧につくられていてX線でも見分けることが困難だという。”ケータリングの支払いが偽札だった” ”給料が偽札だった” はまだしも”ATMから引き出したばかりの紙幣が偽札だったという話には大混乱。

人口150万人(川崎市の人口と同じくらい)の地方都市マッカサールでは既に偽札が多量に出回っている。現地にあるATMブースのガラスの扉に貼られた、偽札の見分け方についてのガイダンスは結構複雑だが、引き出した紙幣を自分でチェック、自分で通報しなければならないルールになっている。

紙を購入した履歴がわかっているのなら、どれだけの量が流通したのか計算してほしいところだが、現場にあった偽紙幣以外の情報はでていない。実は、指名手配中の実業家は、自らは出馬しなくとも、スラウェシ南州で圧勝した候補者の、成功チームのメンバーとして選挙キャンペーンで活動しており、選挙活動で偽札が使われたのかどうなのかということも気になる。

この事件の報道で、印刷のための紙もインクもなんでも中国製で入手できるということがわかった。印刷機さえあればいくらでも刷れてボロ儲けできる。汗水流して働くのがばかばかしく感じられるような印象だが、実は、本物そっくりの精巧な紙幣を印刷するためには、インクや紙といった製造コストがかかるので、十万ルピア札(千円くらい。ルピアで最も高額の紙幣)より小さい額の紙幣(5万ルピア札)を刷れば、製造コストの方が高くついてしまうらしい。

とすると国立大学の施設内で印刷することは、安全だからという目的だけでなく、実は電気代を削減する目的もあったに違いない。この事件により、図書館長は即、解雇され、学長は、”全く知らなかった。裏切りだ”と声を荒らげ怒りの演説を打ち、学生は学長の辞任を請求する。優秀な社会人を世に送り出すための大学で、優秀な偽札が送り出されていたという皮肉な話。