正義と破壊の狭間:デモはなぜ暴動へと変わるのか?

元IMFの理事、歴代三人もの大統領の下で計14年間も財務大臣を勤めたスリムルヤニ氏が辞任した。8月末の政府への抗議デモの後に続く暴動で、自宅を襲撃された後数日後のことだった。

あの朝、同氏の自宅前、暴徒が持ち去らなかった日用生活品が家の前の歩道に散らばっている様子が、ニュースで報道され、その中で家族の集合写真が投げ捨てられている映像がクローズアップされていた。

如何なる理由にしても、そんなところまで報道してしまうニュース番組もどこかおかしいと思うが、あの時の大手メディアの暴動の報道の仕方は、腐敗に対する怒りの対象を特定の人物に向けて、さらなる個人攻撃を煽るか、または、次は誰の自宅が襲撃されるかを煽ってでもいるかのような、違和感が確かにあった。

‥本人にしてみれば、どんなに辛いことだろう。どんなに気丈な人でも、心が折れるだろうなという印象だった。

事一筋で、どこの会社にもいるベテラン経理さんのような、きっちりした雰囲気が親近感を覚える女性大臣。汚職政治に嫌気がさしてキャリアアップして、戻ってきてくれたスーパーウーマン的なイメージだった。

任務に忠実なだけに、上司である大統領の命令に忠実に従ったからなのだろうか。J元大統領任期中の腐敗が暴かれるようになるにつけ、共犯者だったとみられるようになっていたし、税務に関する汚職も野放し状態、それでいて、一般人に対する取り立ての強化を全力で推進している。

自宅が暴徒に襲撃されたのも、やはりつもり積もった恨みで、信頼していただけに裏切られたという印象があったし、重税を課した張本人として、怒りが向けやすかったというのはある。
但し、
私生活で贅沢ぶりを見せびらかしたりするような人物でもないし、私腹を肥やしているという話もなかった。本当に汚職政治家を裁くことが目的なら、先に裁かれるべき人物はほかにいくらでもいるのに、何故、同氏の自宅が襲撃されたのか?
また、厳重に軍が厳重に警備していたはずなのに、何故、暴徒のなすがままにさせたのだろうかという謎も残る。

実際どんな事情があったのかはともかくとして、スリムルヤニ大臣が、他の4人の大臣共々交代となったことは、国内では一応のデモの成果だったと考えられている。

一部の元大統領派の大臣の交代だけでなく、暴動の直接の原因となった国会議員の住宅手当てが取り消しになり、暴言を吐いた議員も解任され、多少は変化の兆しが感じられるということで、現在のところは、提出済みの国民の要求に、政府がどう答えていくのか様子をみるという状況にある。

先週は、ネパールで起きた政府への抗議デモ、暴動の話が話題になった。日本での移民政策反対のデモがあったことについては、整然としたデモの様子が称賛を込めて報道されているのに対し、

ネパールでは、
民衆に追いかけられ裸にされて逃げ惑う大臣や、家やマンションが焼かれて、ヘリコプターで命からがら逃げ出す人たちなど。衝撃的な映像がフォーカスされているのが対照的だ。
#Pejabat Nepal kabur bergelantungan di tali helikopter 
#Menteri keuangan Nepal diamuk 

確かに汚職政治家がボコボコにされるのを見るのは胸のすく思いかもしれないけれど、破壊が大きければ大きいほどデモは成功なのか、というとそんなことは決してない。

先日のインドネシアの暴動の報道では、バス待合所が黒焦げになったり、議会の建物や車が全焼したり、そういう映像は一般大衆の本当のデモに便乗して、破壊行為を扇動する組織が関与していたということがはっきりした。

自然発生的なデモでは、どんなに参加者が多くても、建物が全焼するようなことは決してない。苦しい生活にあえいでいる庶民が、大きな建物を全焼させるほどのたくさんの燃料や薬品を用意することはまずないし、やり方だって知らない。これは、世界各地で発生するデモに共通することだと思う。

政敵を潰すため、汚職追及を逃れるため、犯罪をごまかすため、株価や通貨を暴落させて利益を得るため、カオス状態を作り出すことによって利益を得る側は多い。

そして、デモを意図的に暴動化させる側の狙いは戒厳令だということを忘れてはならない。

事態を収集するためという理由で、軍事統制が敷かれてしまえば、集会やデモどころか報道や言論の自由が更に厳しくなって、軍や政府にとって危険人物だとみなされた人が、理由もなく拘束されたり突然行方不明になったり。

軍が権限を握れば、軍の命令が法律よりも上になる。事態を長引かせてそのまま軍事独裁政権に移行するようなことになれば、通貨下落、経済困窮で、食糧不足、価格高騰… 暗黒の時代に突入することになる。それで利益を得るのは誰か?

じつは、8月末のインドネシアの暴動の最中にも、国防相が戒厳令発布の書面を作成し、大統領に署名を求めていたという話がある。

幸いなことに、デモも暴動も収まったので、危機一髪、軍事統制にならずに済んだということだ。(一般人が暴動に参加することを思いとどまるようになった背後には、こういった陰謀を暴露し、扇動に乗らないよう呼びかけたインフルエンサーの勇気ある活躍があった)

ネパールでは既に、混沌を収拾するために軍事統制下に入っているという。

聞く所によると、ソーシャルメディアで拡散された、とある18歳の高校生の演説が、起爆剤となっているという。物凄い気迫で、z世代の気持ちを代弁しているとして、政府の腐敗に抗議する運動の象徴になっている。ヒットラーの再来じゃないかなんて言う人もいるほどの影響力なのだそうだ。

#Pidato siswa sma viral

そういう若い人の純粋な気持ちが、カオスを起こして利益を得ようとするひとたちの道具にされることのないようにと祈るばかりだ。


#インドネシア #ネパール #暴動 #政治腐敗 #メディア #報道の裏側 #戒厳令 #民衆の怒り #真実 #反移民政策






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