中国案に乗り換えたバンドゥン高速鉄道。
高い金利、無理な返済計画、採算の不透明性
というのが中国案件を選んだ理由だったはず。
ところが蓋をあけてみれば、
実態は、当初中国側が完成を
約束した2019年になっても、
土地の買収すら済んでいなかった。
「大切な国民のお金は一切使わない」と
繰り返し強調していたジョコ大統領自身が、
大統領令を改正し、あっさりと国家予算の投入を
決めてしまった。
その時の言い分は、コロナ感染症拡大の影響で
「国家予算からの資金投入」
「政府による債務保証」が合法となり、
イエスマンばかりの国会が、
不可解な予算をやすやすと通過させることは
もはやいつも通りの光景だった。
「採算が取れるかどうか?」
など最初から気にかけていたのかどうかということだ。
予算不足の主な原因は「土地買収の遅れ」
それは、大幅なルート変更の調整が
行われていたことと深く関係している。
当初の計画を早々に撤回し、
既存の路線との接続もなく、
一から開発の必要な、都心部から離れた場所に
駅をつくるという変更だ。
この時点で、「1日6万〜7万人」という、
当初から非現実的だった利用者予測は、
さらに、大幅に下方修正されていなければ
ならなかったはずだ。
しかしそういう都合の悪い数字は曖昧なまま
国家予算の投入が強行された。
ということだったけれど、
本当にコストを抑えるための
路線変更だったのかどうかということにも
疑問が呈されている。
汚職撲滅委員会の捜査で
一部のブローカーや投機家が新予定地の土地を
明らかになっているのだ。
疑いまであることだ。
誰が・どの区画を・いつの時点で取得し、
いくらで売却したのかという資金や
大型案件は政治的な意向や大統領の一言でもなければ
ジョコ大統領はそういう意味で
抜群に用意周到だった。
そんな政府が、バンドゥン高速鉄道が赤字、
採算が取れず負債が嵩んでいるから、
と反省するだろうか?
むしろ、「おいしい案件だった」
と考えているかもしれない。
少なくとも、あのときの少なからぬ汚れた金は、
現在の権力構造に貢献している。
追及されたり責任を問われることがないのだ。
確実に失ったものは国民の信頼だけに過ぎない。
大したことではないのだろう。
金を集め続けなければならないという
悪循環から、決して抜け出すことはできない。
相変わらず、誰も裁かれないまま。
但し、こういった手口そのものは、
ジョコ大統領が退任後になってから
次々と暴かれ、今や誰もが知る重大な
関心ごととなっている。
しかし、いつまで待っても、肝心の法の執行が
なされる気配はない。
プラボヴォ大統領は「汚職は地の果てまで追いかける」
と演説では、期待させるようなことを
繰り返し言いつづけてきた人物だが、
近頃ではようやく「口先だけで何もするつもりがない」
という評価が多数派を占めるようになった。
「国家予算は打ち出の小槌ではない。
何でも財務省やAPBN(国家予算)に
持ち込まれては困る」。
それは、現政権が強力に進めている
政府ファンド「ダナンタラ」という新しい制度
に対する皮肉。
ダナンタラというのは、
国営電力やプルタミナ石油など、数少ない
「確実に利益を生む国営企業」
の資産と利益を集めて立ち上げられた
大統領直轄の投資ファンド。
(巨額の国営企業の資産を一手に握る割には、
責任の所在が不明で透明性のない
「ダナンタラ」の利益を)
中国側への借金返済に回せばよいことではないか?
というのが彼の意見。
確かに当初のB toBビジネスにおける返済プランでも
既にダナンタラの傘下に纏められた
国有企業の利益から返済することに
なっていたはずなのだ。
この発言が、いかに国民の熱狂を呼んだか
ということについては、
以前、ブログに書いたことがあるが、
じつは、その痛快劇も長くはつづかなかった。
プルバヤ財務大臣の、このカッコイイ発言は、
その直後に、プラボウォ大統領の直々の
「政府が全面的に責任を持って払う」
という発言によってあっさりと撤回されている。
結局のところは、バンドゥン高速鉄道の
巨額の負債を抱えた国営建設企業wikaを、
財務省のファンドビジネスの
傘下に組み込む形で
財務省が借金返済を引き受けることになった。
この国営建設企業WIKAは、
バンドン高速鉄道案件を請け負う前までは、
職人気質の優良企業として知られていた。
この案件のためにジョコ政権下で、
合弁させられ、ずさんな見積もりや、
ルート変更、用地買収の混乱、
巨額のコスト超過を押し付けられ
経営破綻へと追い込まれた揚げ句、
切り離された悲劇の企業。
遠回りした挙句に、結局は国民の税金で
穴埋めさせられているじゃないか
という批判に対しプルバヤ大臣は
「大統領の言うことだから聞くしかないじゃないか」
と苦々しく答えていた。
一時期は、ヒーローとして持ち上げられた彼も
結局のところ、彼は「大統領からの指示に従う」
イエスマンであり、
国民の不満をかわすための、
優秀なガス抜き役でしかなかった
そんな評価に落ちついた。
ところが、それからわずか、数週間後のこと
そのプルバヤ大臣が、会議の途中で
思いもかけない、大統領からの電話一本で
免職されることになる。
予算会議で「ダナンタラ」の予算を
削減しようとしたのがいけなかったのか
それとも、汚職が疑われる税務官を大量に
人事刷新したのがいけなかったのか。
様々な憶測がある。
いずれにせよ一国の財務大臣が、
電話一本で免職されてしまうのは、
あまりにも異常なことだ。
そして彼の後任には、さらなる
イエスマンが据えられた。
それは、前任者の時代から
副大臣を務めていた人物。
就任のあいさつでは
「大統領のプログラムが最優先」
と声高に強調、プルバヤ大臣の決行したばかりの
大幅な人事異動をあっさりと撤回した。
落ち込んだ経済を立て直すには、
本当に能力のある優秀な人物が、
財務大臣になってほしいもの。
しかし「国家の財布(財政規律)を守ろうとして
ブレーキを踏んだ閣僚はトップダウンの一声で飛ばされ、
後任には『大統領のプログラム(政策)最優先』
を誓うさらなるイエスマンが据えられる」
この構造は、まさに「健全な財政・経済管理」という
私たちの一般的なイメージとは大きくかけ離れている。
インドネシア政府が日本を蹴って
激しい競合の末に中国案を選んだことについて、
「後悔して反省している?」
そんなことはありえない。
むしろ、何かまた新たな巨大インフラ計画を
立ち上げて、再び巨額の権限と利権を
握る立場に立つことを虎視眈々と狙っている。
というのが実情ではないかと思う。
インドネシア財務大臣はなぜ「マラッカ海峡での課税」という暴論を口にしたのか?
ルピアに新興国市場から格下げの可能性 原因は政府の新しいファンド「ダナンタラ」?